月のうた、三十四。
つき
『草木塔』七百一句のうち、三十四句に。
- 落ちかかる月を観てゐるに一人鉢の子
- よい湯からよい月へ出た鉢の子
- くりやまで月かげの一人で其中一人
- 月が昇つて何を待つでもなく其中一人
- 月かげのまんなかをもどる其中一人
- かたむいた月のふくろうとして行乞途上
- 雲がいそいでよい月にする行乞途上
- 蚊帳へまともな月かげも誰か来さうな山行水行
- お月さまが地蔵さまにお寒くなりました山行水行
- うしろから月のかげする水をわたる山行水行
- 月がうらへまはれば藪かげ山行水行
- ほいないわかれの暮れやすい月が十日ごろ山行水行
- 月がうらへまはつても木かげ山行水行
- 柿の木のむかうから月が柿の木のうへ山行水行
- 月も水底に旅空がある旅から旅へ
- まこと山国の、山ばかりなる月の旅から旅へ
- 日かげいつか月かげとなり木のかげ雑草風景
- ほつかり覚めてまうへの月を感じてゐる雑草風景
- 月のあかるい水汲んでおく雑草風景
- 月がいつしかあかるくなればきりぎりす雑草風景
- 月のあかるさがうらもおもてもきりぎりす雑草風景
- 月へ萱の穂の伸びやう雑草風景
- 鎌倉はよい松の木の月が出た柿の葉
- ほつと月がある東京に来てゐる柿の葉
- 更けると涼しい月がビルの間から柿の葉
- 月からひらり柿の葉柿の葉
- 月のあかるさはどこを爆撃してゐることか銃後
- そこに月を死のまへにおく孤寒
- 寝床まで月を入れ寝るとする鴉
- 日が山に、山から月が、柿の実たわわ鴉
- 月は見えない月あかりの水まんまん鴉
- なるほど信濃の月が出てゐる鴉
- 月のあかるさ旅のめをとのさざめごと鴉
- 月は澄みわたり刑務所のまうへ鴉
庵にひとり住むようになってから、月はいちばん親しい訪問者になった。戸締まりをしない暮らしだから、月は寝床まで入ってくる。「寝床まで月を入れ寝るとする」。