水のうた、四十五。
みず
『草木塔』七百一句のうち、四十五句に。
- へうへうとして水を味ふ鉢の子
- 水に影ある旅人である鉢の子
- 枯山飲むほどの水はありて鉢の子
- 岩かげまさしく水が湧いてゐる鉢の子
- こんなにうまい水があふれてゐる鉢の子
- 水をへだててをなごやの灯がまたたきだした行乞途上
- 炎天かくすところなく水のながれくる山行水行
- しようしようとふる水をくむ山行水行
- うしろから月のかげする水をわたる山行水行
- 椿のおちる水のながれる山行水行
- ふるさとの水をのみ水をあび山行水行
- 誰にあげよう糸瓜の水をとります山行水行
- 飲みたい水が音たててゐた旅から旅へ
- 落葉ふかく水汲めば水の澄みやう雑草風景
- 月のあかるい水汲んでおく雑草風景
- 霽れて元日の水がたたへていつぱい雑草風景
- 水に雲かげもおちつかせないものがある柿の葉
- 雲のゆききも栄華のあとの水ひかる柿の葉
- 行き暮れてなんとここらの水のうまさは柿の葉
- ここまでを来し水飲んで去る柿の葉
- こころおちつけば水の音柿の葉
- ほんのり咲いて水にうつり柿の葉
- 涸れてくる水の澄みやう柿の葉
- 秋ふかい水をもらうてもどる柿の葉
- お正月が来るバケツは買へて水がいつぱい柿の葉
- お骨声なく水のうへをゆく銃後
- もらうてもどるあたたかな水のこぼるるを孤寒
- 水に放つや寒鮒みんな泳いでゐる孤寒
- 雨を受けて桶いつぱいの美しい水孤寒
- 身にちかく水のながれくる旅心
- 石に水を、春の夜にする旅心
- たたへて春の水としあふれる旅心
- 水をへだててをとことをなごと話が尽きない旅心
- 水のうまさを蛙鳴く鴉
- 山からしたたる水である鴉
- まひまひしづか湧いてあふるる水なれば鴉
- 月は見えない月あかりの水まんまん鴉
- 水のゆふべのすこし波立つ鴉
- 水のまんなかの道がまつすぐ鴉
- 水たたへたればおよぐ蟇鴉
- この水あの水の天龍となる水音鴉
- どこにも水がない枯田汗してはたらく鴉
- もらうてもどる水がこぼれるすずしくも鴉
- 鴉とんでゆく水をわたらう鴉
- 濁れる水のながれつつ澄む拾遺
行乞の道々で出会う湧き水、汲む水、もらってもどる水。山頭火の水の句は、渇いたあとの水のうまさを何度でも新しく発見する。「こんなにうまい水があふれてゐる」「行き暮れてなんとここらの水のうまさは」。酒で身を持ちくずした人がいちばん多く詠んだ飲みものは、じつは水だった——このランキングの静かな急所である。最晩年には「濁れる水のながれつつ澄む」。流れながら澄んでいく水は、そのままこの人の願いだったのだろう。「へうへうとして水を味ふ」。