草のうた、五十二。
くさ
『草木塔』七百一句のうち、五十二句に。
- 法衣こんなにやぶれて草の実鉢の子
- ここにおちつき草萌ゆる鉢の子
- 草の実の露の、おちつかうとする其中一人
- ぬいてもぬいても草の執着をぬく其中一人
- 草しげるそこは死人を焼くところ行乞途上
- 石があれば草があれば枯れてゐる山行水行
- 草や木や生きて戻つて茂つてゐる山行水行
- 蜂がてふちよが草がなんぼでも咲いて山行水行
- ほんにしづかな草の生えては咲く山行水行
- うれしいこともかなしいことも草しげる山行水行
- いつでも死ねる草が咲いたり実つたり山行水行
- 草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ山行水行
- ここを死に場所とし草のしげりにしげり山行水行
- うらから来てくれて草の実だらけ山行水行
- ここで寝るとする草の実のこぼれる旅から旅へ
- あるけば草の実すわれば草の実旅から旅へ
- 枯れゆく草のうつくしさにすわる雑草風景
- しぐれつつうつくしい草が身のまはり雑草風景
- 草のそよげば何となく人を待つ雑草風景
- 身のまはりは草だらけみんな咲いてる雑草風景
- 草を咲かせてそしててふちよをあそばせて雑草風景
- それもよからう草が咲いてゐる雑草風景
- もう枯れる草の葉の雨となり雑草風景
- あたたかく草の枯れてゐるなり柿の葉
- のんびり尿する草の芽だらけ柿の葉
- 浅間をまともにおべんたうは草の上にて柿の葉
- 草のしげるや礎石ところどころのたまり水柿の葉
- ふたたびここに草もしげるまま柿の葉
- 山羊はかなしげに草は青く柿の葉
- 降れば水音がある草の茂りやう柿の葉
- 歩くほかない草の実つけてもどるほかない柿の葉
- 草の咲けるを露のこぼるるを柿の葉
- 草の枯るるにみそつちよ来たか柿の葉
- 草のうつくしさはしぐれつつしめやかな柿の葉
- 草はうつくしい枯れざま柿の葉
- やつぱり一人はさみしい枯草柿の葉
- かうして生きてはゐる木の芽や草の芽や柿の葉
- 身のまはりはほしいままなる草の咲く孤寒
- 草の青さよはだしでもどる孤寒
- 草は咲くがままのてふてふ孤寒
- しんじつおちつけない草のかれがれ孤寒
- 草の実が袖にも裾にもあたたかな孤寒
- 其中一人いつも一人の草萌ゆる孤寒
- ひとり住めばあをあをとして草孤寒
- 草にすわり飯ばかりの飯をしみじみ孤寒
- 草にすわり飯ばかりの飯孤寒
- ごろりと草に、ふんどしかわいた旅心
- 草をしいておべんたう分けて食べて右左旅心
- このみちをたどるほかない草のふかくも旅心
- 身のまはりは日に日に好きな草が咲く鴉
- 囚人の墓としひそかに草萌えて鴉
- 木の芽や草の芽やこれからである鴉
七百一句でいちばん多いことばは、書名の一字目でもある「草」だった。『草木塔』とは本来、伐った草木の命を供養するために建てる塔のこと。名もない草をいたむその心が、そのまま句集の題になっている。山頭火にとって草は道ばたの景色である以上に、すわる場所であり、寝床であり、いつか自分も帰っていく場所だった。だから草の句は、うれしい日にもかなしい日にも詠まれる。「うれしいこともかなしいことも草しげる」「いつでも死ねる草が咲いたり実つたり」。枯れてゆく草にさえ、この人は「草はうつくしい枯れざま」と書いた。